東京高等裁判所 平成元年(行コ)121号 判決 1992年6月29日
東京都府中市清水ガ丘三丁目二六番地
控訴人
日本住宅株式会社
右代表者代表取締役
塚本三千一
右訴訟代理人弁護士
小川喜久夫
同
大塚孝子
東京都府中市分梅町一の三一
被控訴人
武蔵府中税務署長 熊谷厚
右指定代理人
沼田寛
同
杦田喜逸
同
佐藤一益
同
干場浩平
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(一) 原判決を取り消す。
(二) 立川税務署長が昭和四〇年三月三一日付けで控訴人の昭和三六年一一月二日から昭和三七年一月三一日までの事業年度の法人税についてした再更正のうち法人税額一四万〇、二五〇円を超える部分及び重加算税の賦課決定を取り消す。
(三) 立川税務署長が昭和四〇年三月三一日付けで控訴人の昭和三七年二月一日から昭和三八年一月三一日までの事業年度の法人税についてした再更正のうち法人税額四、三八万九、四七〇円を超える部分、過少申告加算税のうち税額五万五、六五〇円を超える部分及び重加算税の賦課決定のうち税額八二万九、五〇〇円を超える部分を取り消す。
(四) 立川税務署長が昭和四〇年三月三一日付けで控訴人の昭和三八年二月一日から昭和三九年一月三一日までの事業年度の法人税についてした更正並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定(ただし、更正及び過少申告加算税の賦課決定についてはいずれも審査裁決で取り消された後のもの。以下同じ)を取り消す。
(五) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
本件控訴を棄却する。
二 当事者双方の主張は、当審における主張を次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
1 控訴人
(一) 第一事業年度について
第一事業年度における問題点は、土地一〇〇〇万円の架空仕入れの有無である。控訴人は、被控訴人主張の架空仕入れを原審において認めたことはなく、仕入れ先の名義が架空のものであったという趣旨である。
この架空仕入れなるものは、田園都市開発株式会社(以下「田園都市開発」という。)から仕入れた土地のうち一〇〇〇万円相当分を大久保七之助外二〇名から仕入れた土地一〇〇〇万円として計上したものであり、仕入先の名義を架空にしたものに過ぎないから、仕入れが全くなかったわけではない。したがって、大久保七之助外二〇名から仕入れた一〇〇〇万円の土地は期末に棚卸しされたことになる。
(二) 第二事業年度について
(1) 架空造成費否認について
被控訴人が架空造成費否認をした一二八〇万円のうち、架空造成費であることに争いのない五四〇万円を除いた七四〇万円は、控訴人が田園都市開発に支払い、田園都市開発が訴外塚本に支払うべき造成費を、控訴人が右塚本に直接支払ったものである。
(2) 棚卸資産認定損戻入れ
第一事業年度における架空仕入れはないから、棚卸資産認定損戻入れをしたことは誤りである。
(3) 棚卸資産損について
棚卸資産損として七〇万八五〇〇円を算定しているが、羽沢坂下について第一事業年度の商品棚卸金額(二〇四万三〇七二円)と第二事業年度のそれ(二八七万九七二五円)とは金額に変動があり、羽沢坂下は第二事業年度において、新たに仕入れがあるとともに、売上もあった可能性があるから、第一事業年度の商品棚卸金額(二〇四万三〇七二円)がそのまま第二事業年度のそれ(二八七万九七二五円)に含まれるとは限らない。
また、第一事業年度における架空仕入れはないから、第二事業年度末の棚卸額に架空仕入分が含まれることはない。
(三) 第三事業年度について
(1) 売上計上もれについて
イ 別表7について
<1> 番号1について 売上計上もれの金額を算定するにあたり坪三万円としたのは誤りであり、坪二万四八〇〇円である。
<2> 番号2について 売上計上もれの金額を算定するにあたり坪三万円としたのは誤りであり、坪二万七五〇〇円である。
<3> 番号3について 売上計上もれの金額を算定するにあたり坪二万七八〇〇円としたのは誤りであり、坪二万五八〇〇円である。
<4> 番号4について 売上計上もれの金額を算定するにあたり坪二万七五〇〇円としたのは誤りであり、坪二万四八〇〇円である。
<5> 番号5について 売上計上もれの金額を算定するにあたり坪三万円としたのは誤りであり、坪二万五八〇〇円である。
<6> 番号6について 売上計上もれの金額を算定するにあたり坪三万二〇〇〇円としたのは誤りであり、坪二万五八〇〇円である。
<7> 番号7について 売上計上もれの金額は三〇万五八〇〇円ではなく、一八万七〇〇〇円である。
ロ 別表8について
<1> 上水新町関係の主位的主張について
小林英嗣から土地を買い受けたのは犬井幸三郎であって、控訴人ではない。昭和三八年五月二一日田園都市開発から仕入れた東京都南多摩郡日野町豊田小高田所在の一四七二坪の土地(以下「豊田の土地」という。)仕入れ代金として、控訴人は同月二二日に同社に対し六〇一万八〇〇〇円を払い、同社はこれを犬井に貸し付け、犬井が同年六月一〇日同社に対し、右金員を返済した。控訴人訴訟代理人稲葉弁護士が遺した訴訟記録の中に、右土地の三番の二、六番の二に関し、田園都市開発と控訴人との間の同年五月二一日付土地売買契約書の写しが存在しているので、これを甲ハ第一六一号証として提出する。したがって、上水新町関係の二一三一万八九五〇円の売上計上もれはないのである。
<2> 上水新町関係の予備的主張について
控訴人が本件仮名預金口座に預金しているうち、四〇一六万四四六〇円を売上げ計上もれであるとするのは合理的理由がない。
(2) 棚卸資産認定損戻入れについて
第一事業年度における架空仕入分はないから、第三事業年度の期首棚卸額に架空仕入分が含まれることはない。
(四) 本件各決定の違法性について
(1) 第一事業年度
一〇〇〇万円の架空仕入れはないから、法人税額一四万〇二五〇円を超える部分及び重加算税の賦課決定は全部違法である。
(2) 第二事業年度
架空造成費否認一二八〇円のうち、七四〇万円は造成費として認定されるべきであり、したがって、架空造成費五四〇万円と貸付金利息計上もれ五二万九四七七円の合計五九二万九四七七円が増加すべき所得金額となる。それゆえ、再更正によって増加した所得金額一八二五万九一五〇円は一七七四万三九六三円を超える限度で違法である。
(3) 第三事業年度
更正によって増加すべき所得金額は四九三三万一三九〇円であるから、これを超える部分は違法である。
2 被控訴人
(一) 第一事業年度について
(1) 架空仕入れの事実について
第一事業年度における架空仕入れに係る金員は、控訴人の公表当座預金口座(多摩中央信用金庫府中支店)から大久保七之助外二〇名に対し土地の仕入れ代金の名目で支出したとされているが、右支出金は控訴人の株主である訴外塚本に交付され、同人はこれを田園都市開発外一社に対する増資あるいは設立資本金の払込金に充当している。また、控訴人も、本件架空仕入れについて、土地の仕入れがなかったこと、右仕入れ金に相当する一〇〇〇万円が控訴人から訴外塚本に交付されていること及び同人がこれを田園都市開発外一社に対する増資あるいは設立資本金の払込金に充当していることをそれぞれ認めている。
(2) 棚卸資産認定損について
本件架空仕入れは仕入れの事実がなかったことは前記のとおりであり、当然に期末棚卸高の中に含まれるものではない。また、本件架空仕入れのうち、期末棚卸高の中に含まれている部分については合理的な計算方法により棚卸認定損を行ったものである。
(二) 第二事業年度について
(1) 架空造成費について
控訴人が造成費支払の名目で支出した七四〇万円は造成工事をしたとする取引先には支払われていない。控訴人が真実造成費として七四〇万円を支出したとすれば、そのように経理処理をすれば足りるものである。仮に控訴人が主張するように訴外塚本が控訴人設立以前に二本松の土地について造成費を支出したとしても、二本松の土地は控訴人が田園都市開発から仕入れたものであり、塚本から仕入れたものではないから、控訴人が負担すべきものではない。右七四〇万円が塚本に支払われたとしても、それは塚本に対し配当金を支払ったことにほかならず、控訴人の損金とは認められない。これらのことから七四〇万円が架空造成費であることは明白であり、控訴人の主張は失当である。
(2) 棚卸資産認定損戻入れについて
第一事業年度における架空仕入れ一〇〇〇万円のうち、六五〇万円を第一事業年度の期末棚卸資産に計上したことは前記のとおりであり、控訴人は第二事業年度の期末棚卸資産に右六五〇万円に対応する棚卸資産を計上していないから、右六五〇万円は第二事業年度の売上原価に算入されたこととなる。それゆえ、第二事業年度の売上原価として損金に算入すべき理由はない。
(3) 棚卸資産認定損について
原判決が棚卸資産認定損を認定して損金算入を認めたことは控訴人に何ら不利益ではないから、控訴人の主張は失当である。
(三) 第三事業年度について
(1) 売上計上もれについて
イ 別紙7について
控訴人は、売上計上もれはないというが、売渡しの坪当たり単価を実際より少額なものとして計上し、その差額が売上計上もれとなっているものである。
ロ 別表8について
上水新町の土地の売上取引は、もともと控訴人が自ら行った取引であるにもかかわらず、右取引きに犬井名義を使用してあたかも犬井個人の行為であるかのように仮装したものであるから、右取引の収益はすべて控訴人に帰属する。
ところで、上水新町の土地の取引に関して支払われたとする六〇一万八〇〇〇円なる金額は、田園都市開発から仕入れた豊田の土地の仕入れ代金の一部であると主張し、昭和三八年五月二一日付け土地売買相互契約書(甲ハ第一六一号証)なるものを提出している。
しかし、甲ハ第一六一号証の原本は存在せず、収入印紙に押されている印影は不自然であり、控訴人は右の主張を昭和五五年五月に行いながら、甲ハ第一六一号証が提出されたのは、平成三年五月一五日の当審第三回弁論であり、提出の仕方が不自然であること、売主である田園都市開発は控訴人の関連会社であることを考慮すると、右書証の証拠価値は認められない。
(2) 棚卸資産認定損戻入れ
第二事業年度の期末棚卸高にも第一事業年度の架空仕入分が含まれている。したがって、第三事業年度の期首棚卸高にも含まれていることとなり、右架空仕入分は、第三事業年度の売上原価として損金に算入されていることになるが、損金に算入されるいわれはない。
三 証拠関係は、原審記録中の書証目録・証人等目録及び当審記録中の証書目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり付加、訂正する。
1 原判決書四四枚目表七行目末尾に「なお、控訴人は、被控訴人主張の架空仕入れの事実を認めたことは
なく、仕入先の名義が架空のものであったという限度で認めたものであると主張するようであるが、控訴人は、原審における昭和四七年一一月二四日付け要約準備書面及び昭和五六年三月一二日付け準備書面において、被控訴人主張の架空仕入れの事実を認めていることは明らかであるから、右主張は採用の限りではない。」を加える。
2 同四六枚目表九行目「証拠がないこと、」の次に「原審証人多賀谷恒八の証言によれば、控訴人に対して法人税調査が行われた際には、控訴人の顧問会計士を含めて控訴人側から東京国税局の担当係官に対し架空仕入れに対応する架空の一〇〇〇万円の棚卸資産を計上してる旨の説明はなかったこと、」を加える。
3 同四八枚目表九行目の次に行を改め、左のとおり加える。
「なお、控訴人は被控訴人主張の架空仕入れの土地一〇〇〇万円が全額期末棚卸資産に含まれている根拠として、仕入先の名義を架空にしたものに過ぎず、土地の仕入れは現実にあったから、期末棚卸資産に計上することは当然であると主張する。しかし、前説示の事実関係によれば、大久保七之助外二〇名からの土地の仕入れは架空であったことが明らかであり、また、その架空仕入高の一部六五〇万円が期末棚卸に含まれており、これを控除すべきことは前示のとおりであるから、控訴人の右主張は失当である。」
4 同五〇枚目表一〇行目「支出したこと」の次に「及び塚本において右造成費の支払を受けるべき経理上の処理をしていること」を加える。
5 同五五枚目裏八行目「五二九、七五一円」を「五二九、四七七円」に、同六六枚目裏九行目「乙(ハ)第一七六号証」を「乙(ハ)第一七六号証の一ないし五」に、同七二枚目裏末行「前掲(ハ)第三二号証」を「前掲甲(ハ)第三二号証」に、同七四枚目表六行目「甲(ハ)第一四〇号証」から同九行目「第九七号証の二ないし四」までを「甲(ハ)第二一号証、第二六号証、第二九号証、第三一号証、第一四〇号証、原本の存在と成立に争いのない乙(ハ)第六二号証、第九〇号証の二ないし四及び成立に争いのない乙(ハ)第九七号証の二ないし四」に、同七四枚目裏四行目及び同七六枚目裏九、一〇行目「一段六畝四歩」をいずれも「一反六畝四歩」に、並びに同七八枚目裏末行「小林英嗣」を「犬井幸三郎」にそれぞれ改める。
6 同七九枚目裏末行の次に行を改め、左のとおり加える。
「なお、控訴人は、上水新町の土地の取引に関して支払われたとする六〇一万八〇〇〇円の金員は、田園都市開発から仕入れた豊田の土地の仕入代金であると主張し、右主張を裏付けるものとして平成三年五月一五日の当審第三回弁論期日において甲ハ第一六一号証(昭和三八年五月二一日付け「土地売買相互契約書」と題する書面)を提出する。しかし、右書証は、控訴人の主張時期(昭和五五年五月二八日付け準備書面において右主張をしている。)に照らして提出の時期が余りにも遅いこと、原本を複写した写しであるのに、原本が存在しないことは極めて不自然であることなどを考慮すると、たとえ書証の成立が認められるとしても、その信用性は極めて低いものというべきであって、控訴人の右主張を認める証左とはなり得ない。」
7 同九六枚目表四行目「認められる。」を「認められ、さらに、控訴人は、当審において、右主張を裏付けるものとして甲ハ第一六一号証(昭和三八年五月二一日付け「土地売買相互契約書」と題する書面)を提出する。」に、同九行目「原告と田園都市開発」から同裏二行目「提出されず、」までを「控訴人と田園都市開発間の土地売買契約が締結されたことを裏付けるものとして、当審において提出された甲ハ第一六一号証はその信用性が極めて低く、控訴人の右主張を認める証左となり得ないものであることは既に述べたとおりであり、また、代金の支払がされたことを裏付ける領収書も提出されておらず、」にそれぞれ改める。
8 同一二二枚目裏末行「被告」を「原告」に、同一二四枚目裏六行目「九月二〇日」を「九月三〇日」に、同一三六枚目表三、四行目及び八行目「二、三二六、二五〇円」を「一、三二六、二五〇円」にそれぞれ改める。
二 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法三八条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡田潤 裁判官 根元眞 裁判官安齊隆は、転補につき、署名捺印することができない。裁判長裁判官 岡田潤)